福岡地方裁判所 平成10年(レ)67号 判決 2000年1月28日
別紙当事者目録記載のとおり
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
第二事案の概要
一 本件は、貸金業者である被控訴人が、被控訴人から借入れをした借主の連帯保証人である控訴人に対し、連帯保証契約に基づいて、残元本五九万九〇〇〇円及びこれに対する最終弁済日である平成九年四月二五日から支払済みまで、利息制限法所定の限度内の利率である年三〇パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めたところ、控訴人が、右借主が同法の限度を超えて支払った利息及び遅延損害金は任意に支払ったものではないから、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)四三条の適用はなく、残元本は弁済により消滅しているなどと主張して、これを争った事案である。
二 争いのない事実等
1 被控訴人は、貸金業法所定の登録(登録番号大蔵省九州財務局長(三)第〇〇〇〇一号、平成四年一二月以降は同(四)第〇〇〇〇一号)を受けた貸金業者である。
2 被控訴人は、平成四年一月一六日、A(以下「A」という。)に対し、以下の約定で二〇〇万円を貸し付け(以下「本件貸付」という。)、控訴人は、同日、右貸付に基づきAが被控訴人に対して負担する一切の債務(以下「本件債務」という。)につき、被控訴人に対して連帯保証した(以下「本件連帯保証」という。)。(甲四、五)
(一) 平成四年二月から平成九年一月まで、毎月五日限り、元金三万三〇〇〇円(ただし、最終支払元金は五万三〇〇〇円。)及び利息を、被控訴人北九州支店に持参又は送金して支払う。
(二) 利息及び遅延損害金は、いずれも年三九・八〇パーセント(ただし、一年を三六五日とする日割計算)の割合とする。
(三) 元利金の支払を怠ったときは、通知又は催告することなく期限の利益を喪失し、直ちに債務全額及び残元金に対する遅延損害金を支払う。
3 Aは、被控訴人に対し、平成三年八月五日から平成九年六月三〇日までの間、別表の「合計入金額」欄記載のとおり、金員を支払った。
4 Aは、被控訴人から、本件債務のほかに、次のとおり金員を借り受けた(以下、それぞれ「別口貸付(一)ないし(四)」という。なお、これらを併せて「別口貸付」ということがある。)。
(一) 平成三年七月九日 二〇〇万円
(二) 平成四年四月八日 二〇〇万円
(三) 平成四年一〇月五日 八〇万円
(四) 平成六年七月二二日 一五〇万円
三 争点
1 弁済充当の指定
(一) 控訴人の主張
Aは、前記二3の支払のうち、振込により入金された平成四年七月六日、同年八月五日、同年九月七日、同年一〇月五日、同年一一月五日、同年一二月七日、平成五年一月五日及び同年四月五日の八回の振込入金について、被控訴人に対し、弁済充当すべき債務として本件債務を指定する旨の意思表示をした。
(二) 被控訴人の主張
Aは、右各支払に際し、弁済充当すべき債務及び金額として、別表の本件貸付及び別口貸付(一)ないし(四)の各「充当額」欄記載のとおり指定する旨の意思表示をした。
仮にそうでないとしても、被控訴人は、Aに対し、右各支払があった都度、充当の内容が分かる受取証書を交付することにより、弁済充当指定の意思表示をしており、Aも右充当の事実を認識しながら、これに対して異議を述べなかった。
2 契約書面の交付
(一) 被控訴人の主張
被控訴人は、本件貸付及び別口貸付に際し、貸金業法(一七条一項、二項及び一八条一項については、平成九年法律第一〇二号による改正前のもの。以下同じ。)一七条一項及び平成一〇年六月一八日号外総理府・大蔵省令第三号による改正前の貸金業の規制等に関する法律施行規則(以下「施行規則」という。)一三条所定の事項を記載した本件貸付及び別口貸付に関する契約書面(以下「契約書面」という。)をAに、貸金業法一七条二項及び施行規則一四条所定の事項を記載した本件貸付に関する契約書面を控訴人に、それぞれ交付した。
(二) 控訴人の主張
(1) 返済期日が休日に該当する場合の取扱いについて
本件貸付に関する契約書面には、返済期日が日曜日ないし祝日の休日に該当する場合の取扱いについての記載がないにもかかわらず、日曜日ないし祝日の休日に該当する返済期日がそのまま記載されているが、このような記載は、貸金業法一七条一項八号、施行規則一三条一項一号チの「各回の返済期日」の記載としては不十分であり、貸金業法四三条のみなし弁済の効果を生ずるための要件である契約書面の交付があったとはいえないから、貸金業法四三条の規定の適用はない。
仮に、当該休日の翌日を返済期日とする合意があったことが推認されるとしても、被控訴人は、本件貸付及び別口貸付につき、平成四年三月までは、休日の前日を返済期日として取り扱う合意をしていたから、右要件を満たさず、本件各返済に貸金業法四三条のみなし弁済の規定の適用はない。
(2) 期限の利益喪失の取扱いについて
別口貸付(四)について、被控訴人は、利息は年二九・八パーセント、遅延損害金は年三九・八パーセントの割合としながら、遅滞があっても期限の利益を喪失させず、遅れた日数分だけ遅延損害金の利率で徴収し、次回の支払は遅滞がない場合と同様の利率で利息を徴収しているが、別口貸付(四)の契約書面には、そのような記載がされておらず、貸金業法一七条一項七号の「賠償額の予定に関する定め」の要件を満たしておらず、右返済に貸金業法四三条のみなし弁済の規定の適用はない。
3 任意性
(一) 被控訴人の主張
Aは、利息制限法所定の年一五パーセントを超える金員を、本件貸付及び別口貸付の利息又は遅延損害金として任意に支払った。
(二) 控訴人の主張
(1) 「利息又は損害金として」について
Aは、右支払の際、本件貸付及び別口貸付につき、元本及び利息又は遅延損害金の合計額を銀行振込で支払っているものがあるが、これは本件貸付及び別口貸付の「利息又は損害金として」支払ったものとはいえない。
(2) 「任意に」について
Aは、平成五年四月五日以降、利息制限法所定の制限利率を超える利率の遅延損害金を支払い続けているが、いったん遅滞に陥った債務者が、同法所定の制限利率の範囲内の損害金のみを支払う旨の意思を表明すれば、債権者から一括返済を求められる結果になり、事実上そのようなことは不可能であり、「任意に」遅延損害金を支払ったと解することはできない。
4 受取証書の交付
(一) 被控訴人の主張
被控訴人は、A又はその連帯保証人から本件貸付及び別口貸付の支払を受領する都度、直ちにこれらの者に対し、貸金業法一八条一項及び施行規則一五条所定の事項を記載した受取証書(以下「受取証書」という。)を手渡し又は郵送の方法で交付した。
(二) 控訴人の主張
被控訴人は、以下のとおり、受取証書を控訴人に対して郵送しておらず、また、交付した受取証書についても誤った記載があるなど、貸金業法一八条一項にいう受取証書と解することはできないものであり、貸金業法四三条の適用はない。
(1) 受取証書の交付等について
被控訴人が本件貸付及び別口貸付の支払を振込入金により受領した際、Aに対し、受取証書が郵送により交付されたことはない。
(2) 期限の利益の喪失について
平成五年五月六日支払分以降の受取証書には、Aが同年四月五日に期限の利益を喪失していないにもかかわらず、受け取った金員を遅延損害金に充当する旨が記載されており、誤った記載がされている。
(3) 記載の誤りについて
本件貸付及び別口貸付について、平成四年九月七日、同年一二月七日及び平成五年八月五日の各支払に対して交付された受取証書には、遅延損害金欄に記載すべきところを利息欄に記載したり、利息欄に記載すべきところを遅延損害金欄に記載するなど、誤った記載がされているものがある。
第三争点に対する判断
一 弁済充当の指定について
1 <証拠省略>及び証人B並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) Aは、平成元年から物品販売業を営んでおり、また、本件貸付は、二〇〇万円の一括貸付であった。
(二) 貸付契約説明書には、返済期間、分割元金額、最終分割元金額、利息及び遅延損害金の利率、計算方法及び経過日数が記載されており、Aは、契約の際、被控訴人から右の事項について説明を受けた上、右契約説明書に署名し、同時に償還表も交付された。
(三) 受取証書は、利息欄と損害金欄が左右に分割して設けられ、各欄にゴシック体で具体的な利率、期間、金額を、その他前元金残高、元金充当額、受領合計金額、弁済後の残存元金がそれぞれ表示されており、さらに、平成八年三月二二日以降の受取証書には、「充当金額に異存のある場合は至急ご連絡下さい。」と記載されていた。
(四) 本件貸付及び別口貸付に対する支払において、振込入金の回数は、本件貸付(総支払回数六三回)、別口貸付(一)(六五回)、別口貸付(二)(五四回)、別口貸付(三)(五二回)においていずれも八回であり、その他は全て持参払いであったところ、持参払いの場合には、被控訴人担当者が口頭で充当内容を説明し、Aは、これを確認してから支払い、また、振込入金の場合には、被控訴人が入金を確認後、受取証書をAに郵送していた。
(五) Aは、被控訴人に対し、銀行振込分につき、一度も利息又は遅延損害金の充当関係について異議を述べたことがなかった。
右認定事実によれば、Aは、本件貸付及び別口貸付(一)ないし(四)について、それぞれ別表の「充当額」欄記載のとおり、弁済充当したことが認められる。
2 ところで、控訴人は、Aは、前記各支払の際、本件貸付に充当する意思表示をした旨主張するが、前記争いのない事実等及び<証拠省略>によれば、Aは、平成四年七月六日、同年八月五日、同年九月七日、同年一〇月五日、同年一一月五日、同年一二月七日、平成五年一月五日及び同年四月五日の八回にわたる振込入金については、いずれも入金前に被控訴人方に電話をし、入金について確認していることが認められるが、その際、Aが、本件債務のみに全額充当する旨指定した事実を認めるに足りる証拠はない。
かえって、前記争いのない事実等によれば、右振込入金額は、本件貸付及び別口貸付の全貸付の各元本及び利息の合計額と同額か、又はこれを数十円ないし数百円超える額であったことが認められ、右事実からすれば、Aは右各支払の際、各貸付の元本及び利息の合計に足りる額を入金し、各保証人との関係を考慮して、その全ての返済義務をできるだけ履行しようとする意思であったことがうかがわれるのであり、控訴人の主張は採用できない。
二 契約書面の交付について
1 <証拠省略>によれば、被控訴人は、貸金業法及び施行規則所定の事項を記載した本件貸付及び別口貸付に関する契約書面をAに、本件貸付に関する契約書面を控訴人に、それぞれ交付したことが認められる。
2 控訴人の主張(1)(返済期日が休日に該当する場合の取扱い)について
本件貸付の契約書面には、返済期日を「毎月○日」とする旨の定めがあるだけで、当日が日曜日ないし祝日の休日に該当する場合の取扱いについての記載がないことが認められるが、このような場合であっても、その地方において別異の習慣があるなど特段の事情がない限り、契約当事者間に、右○日が休日であるときはその翌営業日を返済期日とする旨の黙示の合意があったことが推認されるというべきであり(最高裁判所平成一一年三月一一日判決・民集五三巻三号四五一頁参照)、そうであれば、右契約書面の記載は、「各回の返済期日」の記載として欠けるところはなく、貸金業法一七条所定の要件を満たすということができ、控訴人の主張は採用できない。
また、控訴人は、被控訴人が平成四年三月までは、約定返済期日が休日である場合は、その前日を返済期日とするとの合意があった旨主張し、これに沿う内容の陳述書(乙八号証)を提出するが、右書証は、本件とは別の事件において提出されたものである上、被控訴人の一方的な取扱いについて陳述したものにすぎないものであるから、本件貸付において、Aと被控訴人間に、約定返済期日が休日であった場合、その前日を返済期日とする旨の合意があったと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はないから、右黙示の合意の推認を覆すべき特段の事情があったとはいえず、控訴人の主張は採用できない。
3 控訴人の主張(2)(期限の利益喪失の取扱いについて)について
乙四号証、五号証によれば、被控訴人は、別口貸付(四)の契約時に、Aに対し、利息は年二九・八パーセント、遅延損害金は年三九・八パーセントの割合とし、遅滞があっても期限の利益を喪失されず、遅れた日数分だけ遅延損害金の利率で徴収し、次回の支払は遅滞がない場合と同様の利率で利息を徴収する取扱いをすることを説明したことが認められる。そうであれば、Aは、契約書面の記載と右説明によって、損害金の利率についてもあらかじめ正確に把握できるのであって、契約内容が不明確であるとはいえない。
また、控訴人は、被控訴人が右取扱いに反して三九・八パーセントの損害金を徴収する可能性があるため、債務者の地位が不安定になり、不利益が生ずる旨主張するが、そのことから直ちに契約内容が不明確となり、債務者に具体的な不利益をもたらすものではないというべきである。
したがって、「賠償額の予定に関する定め」の記載に欠けるところはなく、控訴人の主張は採用できない。
三 任意性について
1 控訴人の主張(1)(「利息又は損害金として」)について
貸金業法四三条一項の「利息又は損害金として支払った」とは、元本及び利息又は遅延損害金が、それぞれ具体的にいくらになるかを認識していたかはともかくとして、支払った金額が、本件貸付契約に基づく利息又は遅延損害金の支払に充当されることを認識した上で支払ったことをいい、振込入金の場合においては、入金時に具体的な充当金額を把握している必要はなく、右金額は、遅滞なく貸金業者から交付される受取証書の記載等によって具体的に把握できれば足りるというべきである(最高裁判所平成二年一月二二日判決・民集四四巻一号三三二頁、同平成一一年一月二一日判決・民集五三巻一号九八頁参照)。
そうであれば、前記一1の認定事実によれば、Aは、本件各債務の振込入金の際、契約書面、償還表、前回までの受取証書を手掛かりにして、利息又は遅延損害金に充当されることを認識した上で支払い、その後送付された受取証書によって具体的な充当額を把握していたことが推認できるから、控訴人の主張は採用できない。
2 控訴人の主張(2)(「任意に」)について
貸金業法四三条一項の「任意に」支払ったとは、債務者が、自己の自由な意思によって支払ったことをいい(最高裁判所平成二年一月二二日判決・民集四四巻一号三三二頁参照)、詐欺、強迫はもとより心理的強制によるものであるときは、自由な意思によって支払ったとはいえないというべきであるが、前記一1の認定事実によれば、Aは、自己の自由な意思によって支払ったことが認められる。
ところで、控訴人は、Aのように、期限の利益を喪失したとされる債務者が、利息制限法所定の制限利率の範囲内でのみ遅延損害金を支払うことは事実上不可能であるから、「任意に」遅延損害金を支払ったということはできない旨主張するが、直ちに右主張のような事実を推認することはできず、また、被控訴人がAに対して、右制限利率を超えた遅延損害金を支払わなければ一括返済を請求するというような心理的強制を加えたことをうかがわせるに足りる証拠はなく、控訴人の主張は採用できない。
四 受取証書の交付について
1 控訴人の主張(1)(受取証書の交付等)について
<証拠省略>並びに弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、A又はその連帯保証人から、本件貸付及び別口貸付の分割金の支払を受領する都度、貸金業法及び施行規則所定の受取証書を、弁済者に対し、持参払いの場合には直ちに交付し、銀行振込の場合には郵送し、右郵送に関する領収書郵送控を作成していたこと、右領収書郵送控には、①発送年月日毎に、領収書番号、契約番号、債務者名、送付先住所、入金年月日、入金額などが記載され、②発送責任者の確認印が押印され、③公証人役場の確定日付の証明を受けていたことが認められる。
以上の事実によれば、被控訴人が、Aに対し、貸金業法一八条一項及び施行規則一五条所定の受取証書を郵送したことが認められ、Aが不在のため右受取証書を受領できなかったなど特段の事情につき反証のない本件においては、右受取証書が郵送によりAに到達したことを推認することができ、控訴人の主張は採用できない。
なお、控訴人は、受取証書の交付の事実は、内容証明郵便若しくは配達証明郵便等の方法で証明すべきである旨主張するようであるが、右事実の証明はそのような方法に限定すべき理由はなく、控訴人の主張は採用できない。
2 控訴人の主張(2)(期限の利益の喪失)について
前記争いのない事実等によれば、本件貸付及び別口貸付のいずれについても、A又は連帯保証人が元金の支払を遅滞したときは催告の手続を要することなく期限の利益を失い、直ちに元利金を一時に支払う旨の特約があること、Aは、①平成五年四月五日、本件貸付につき二万五〇〇〇円、別口貸付(一)につき二万七二七三円(いずれも約定支払元本三万三〇〇〇円)、別口貸付(三)につき六〇〇〇円(約定支払元本一万三〇〇〇円)を支払ったのみであること、②同年一二月六日(同年一二月五日は日曜日)、別口貸付(二)につき支払うべき四万四九一四円(元本及び利息合計)を支払わなかったこと、③平成六年八月一五日、別口貸付(四)につき支払うべき五万四三九一円を支払わなかったことが認められ、Aが各貸付について期限の利益を失ったことは明白である。
ところで、控訴人は、被控訴人が全貸付とも長期間にわたって一括請求していないこと、契約締結時において、返済期日に遅れても、支払日までの遅延損害金しか徴収しない旨の説明をしていたこと、別口貸付(四)は、他の貸付について期限の利益を喪失した後に貸し付けていること等から、実質的には期限の利益を喪失していない旨主張する。
しかしながら、前記のとおり、控訴人に遅延損害金の発生原因となる期限の徒過が生じたことは明らかであり、控訴人主張の右事実があったとしても、被控訴人がAに対し、再度期限の利益を付与したものと解することはできず、むしろ、被控訴人が、Aにおいて一括弁済する資力がないことを考慮した上で一括請求せず、遅延損害金を一部免除したものと解するのが相当である。
したがって、本件貸付及び別口貸付(一)ないし(四)において、各期限の利益喪失後の受取証書に、遅延損害金に充当した旨記載されているとしても、これを誤った記載ということはできず、控訴人の主張は採用できない。
3 控訴人の主張(3)(記載の誤り)について
<証拠省略>によれば、本件貸付、別口貸付(一)、(二)及び(三)につき、平成四年九月七日振込分及び同年一二月七日振込分の各受取証書(ただし、別口貸付(三)については同年一二月七日振込分のみ)には、利息欄に記載すべきところを一日分だけ遅延損害金欄に記載されていること、本件貸付、別口貸付(一)及び(三)につき、平成五年八月五日振込分の受取証書には、遅延損害金欄に記載すべきところを一日分だけ利息欄に記載されていることが認められる。
右のとおり、誤記載のある受取証書が存在することが認められるが、証人Bの証言及び右誤記載が特定の三日間に集中していることによれば、これらがコンピューターの誤作動による単純な記載ミスであることが認められ、また、いずれについても、前後の受取証書の記載は正確であり、これと契約書面及び償還表を手掛かりにすれば、充当計算の手掛かりを与えるという受取証書の趣旨は十分に果たされているというべきであること、さらに、遅延損害金の計算も約定利息の利率で計算されており、Aに実質的な不利益が生じているとは考えられないことからしても、右記載の誤りがあったとしても、直ちに貸金業法一八条一項の要件を満たしていないということはできないのであり、控訴人の主張は採用できない。
第四結論
以上のとおりであり、本件においては、貸金業法四三条所定の要件が満たされているから、Aの被控訴人に対する各支払は、本件貸付及び別口貸付(一)ないし(四)について、有効な元本及び利息又は遅延損害金の弁済とみなされるのであり、そうであれば、Aは、平成五年四月五日に支払うべき元本の一部につき支払を怠り、期限の利益を喪失したといわなければならないのであり、よって、被控訴人がAの連帯保証人である控訴人に対し、本件貸付の残元本五九万九〇〇〇円及びこれに対する最終弁済日である平成九年四月二五日から支払済みまで、利息制限法所定の限度内の利率である年三〇パーセントの割合による遅延損害金について連帯保証債務の履行を求める請求は理由があり、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 木村元昭 裁判官 森英明 菊池浩也)
<以下省略>